noNameティーンと距離感・3—「家でも学校でも、死にたくなるから」自分と興味と、生命の置きどころ―

夏休み明けの、ナナメカフェ。
塾の夏期講習や旅行でしばらく会えていない人も、来てくれるでしょう。

ところが、ティーンたちの様子は少し、荒れ模様でした。

目次

夏休み明けって、荒れるんだ

9月1回目のナナメカフェ。

「夏休み明けって、荒れるんだ。あしたは大変かもしれないな」

私たちは、「きっと荒れるだろうな」という事前の打ち合わせをしていました。

武蔵の経験上、「夏休み明けの現場は、荒れる」ということがわかっていたからです。
喧嘩が増え、目のくばり方にも気を遣います。

大庭のところにも、思春期の方のソーシャルワーク関連の深刻なご相談は、8月下旬頃から10月にかけて増える傾向があります。
児童福祉系の施設さまとのお仕事でも、トラブル対応に追われやすい時期です。

社会的にも、自殺などの話題を耳にする時期ということで、敏感になっている方も多いときかと思います。
当事者の方、周囲に苦しい思いをしている方をもつ方にとっては、生きることさえままならないときかもしれません。

思いが爆発したのは氷山の一角であって、いつも燻っているものが顕在化したのが、偶然いまだったということ。
いつもお伝えしていることですが、「誰が悪い」「誰かが悪い」のではありません。
思いのやり場がないこと、受け皿や隙間のない状況、負荷が偏るほど余裕のないことが、苦しさの理由なのです。
「誰かが負う必要があるとすれば、それは社会全体で考えていく課題だということ」というのが、私たちのスタンスであると前置きしておきましょう。

今回は、ティーンにとっての苦しみや負担、怒り、悲しみに触れながら、
どのように社会のなかで関係を結んでいくのか、考えてみたいと思います。

約束はしない。でも、ここに来る感じだから

ダル絡みのnoNameティーン

常連のAくん。
ナナメカフェがオープンした当初から通ってくれています。

最初は、同級生と一緒に来ていました。
ここのところいつも、ひとりでふらっと訪れます。

同級生が忙しくて来られなくなっても、自分自身はカフェのあと塾に行かなくてはならなくなっても、通い続けてくれます。
夏休みにも、ずっと来てくれました。

学年の異なる人たちと入り混じってゲームをしたり、
おむすびを取りにきて、ぼーっとしたり。
不安なときは武蔵のいるテーブルや大庭のいるカウンターの近くでくるくると逡巡して、やたらと目を合わせて、気が済んだら、椅子にもどっていく――
それが、彼の癖。

ワンアクション、多いなあ。
この日の彼は、お菓子を取りに来ては、くるくるくるくる……座り、
麦茶を取りに来ては、くるくるくるくる……座るかと思えば、
おむすびの在庫を確認するふりをして、くるくるくるくる……
やたらと顔色も悪く、どんよりとしています。

「きょう、◯◯(ゲーム仲間のひとり)来ると思う?」

Aくんに声をかけました。

「さあ……来るんじゃないですかね。僕も、約束はしないけど、いつもここに来る感じだから」

精一杯力をこめていたはずの口角が緩んで、Aくんは麦茶をひとくち。
椅子にもどっていきました。

どうせママに怒られるし、見せないよ

PCで勉強するnoNameティーン

夏休みは夏期講習に追われてご無沙汰だったBさん。

待ちきれず帰り道に荷物を置きに来て、

「◯分以内に帰ってくるから!計っといて!」
と言い残し、きっちりその時間内に着替えも済ませて、帰ってきました。

持ってきたのは、ポケットに入れたスマホだけ。

「あれ、手ぶら?」

「だって、ここにいても今日は勉強する感じにならないから、勉強道具はいい」

ほう。潔い……

さきほど一瞬見せてきたテストの結果表のことを、武蔵が尋ねました。

「テストの結果、おうちの人に見せたん?」

「まだ!どうせママに怒られるんだから、言われるまで見せんよ。でも、見せるときには、コツがある」

コツ――
彼女なりのその秘策を、こっそり打ち明けてくれました。

彼女のテスト結果は、客観的には「怒られるほど悪い」ようなものには思えないのですが、彼女自身が納得できない結果であることは明らか。
苦手科目も、苦手な理由も、十分すぎるくらい自己分析できています。
親御さんにあれこれ言われる、というだけでなく、自分のなかで納得できないこともまた「結果表を隠す」ことの動機につながっているのでしょう。

この日は勉強道具を持ってこなかったけれど、普段は学校に塾にと持っていく宿題をしています。
「英語マジわからん。武蔵これやって~。大庭これ解いて~」
スタッフにダル絡みをしながら。
憎まれ口を叩きながら。

「ダルい」「宿題終わんない」の向こう側に

ダル絡みのnoNameティーン

PCの画面に目を落としたり、宿題をしたり、
スタッフと話したり、お菓子をつまんだりしながら過ごすCさん。

「あ~ダルい。まだ宿題終わんない。ゲームしたいッ」

そう言いながら、PCを開いている武蔵に、じりじりと椅子ごと近寄ってきます。

(どうしよう……きょうもCちゃん、えらい寄ってくるんだよな……戸惑うなあ……)

バックヤードで、共有します。

セオリーで言えば、同性である大庭がCさんの近くに寄っていき、武蔵は距離をとることになるのかもしれません。
けれども、いまの彼女はそんなこと、求めてはいないのです。
必要なとき、その瞬間には、「ねえ大庭これ見て~」と、話しかけてきたり、大庭のほうに身を寄せてきたり、ハグしてきたりする人です。

なにかしてほしいわけではない。
ただ、近くに感じたい。
触れたいわけではない。
極端に飢えている、偏っている栄養素を静脈注射で補うように、ほんのりと体温を感じ合う距離感でいたい――

「武蔵のコップ作ってあげる」

テーブルにいたひとりがペンを持ったのを、Cさんは目で追いかけます。
誰かが紙コップに武蔵の名前を書き、
誰かがガジェットにイラストを描き……
「見えないところだけにしとけよ」
の声もむなしく、
あっという間にみんなで特級呪物をつくりあげていきました。

「やばー。きょう3時間ずっとこれ描いてんだけど(笑)かわいくしといた。癒し系じゃない?」

「おい!また外で使えんくなったやないか!」

「あたしも追加しとこー」

ワイワイとみんなでじゃれ合ううちに、その日目が吊り上がっていたCさんは、ようやく笑いました。

大事なことなのに、生命のことなのに、どうして内緒にするんだ!

ゲームするnoNameティーン

いつも無邪気なDくんが、大庭に声をかけてきました。

「僕は、不満があります。溜まっています。ふんッッ!!」

怒る様子すらかわいらしい、と表現したくなるのを抑えて、近くに行きました。
落ち着かなくて、いつもすぐ座ってゲーム、の彼が、
人数調整をするためのインターバルで、ソロプレイにもどるのではなく、珍しいと思ったものです。

「卵子と精子がどっからどうやってくっつくのかって聞いたのに、先生は何も教えてくれない!」

おお……
そうだよね。気になるよね。

「そうか。どんなふうにわからないと思ったの?どこをもっと知りたいと思ったの?」

「どうやって出ていってどうやって入っていくのか、わかんないんだ!『くっついて、赤ちゃんになります』はわかるけど、くっつくところとやり方が見たいのに!誰も教えてくれない!生命のことなので、大切ですから勉強しましょうって言うから、僕聞いたのに、『そんなこと聞くもんじゃない!』って先生が言った!そんなのおかしい!まちがってる!!僕は悪くないッッ!!」

「先生、慌てていなかった?」

「ううん、怒られた!僕悪くないッッ!!こんなのおかしいッッ!大切なことならちゃんと教えてくれなくちゃ、おかしいッッ!!」

「そうかあ、『大切なことだ』って言われたから、一生懸命知ろうとしたのに、教えてもらえなくてつらかったんね」

「そう!僕悪くないよねッッ!子宮の中に入って、胎盤がくっついて赤ちゃんになるのはわかるけど、どこで卵子と精子がくっつくのかが知りたい!輸入ッッ?」

輸入……

それまでの彼の動向やナナメティーンたちの会話から、思春期なりの情報源を持っていることも、知っていました。
おそらく、ある程度わかったうえで、顔の見える関係性の人間から、客観的な情報を求めているようなところを感じ取りました。

「Dくん、あのね。怒らないから聞くんだけど、こういう話って、ある程度ネットとかで見たり聞いたりしたこと、ある?」

「うん……ちょっとはね……」

「先生は悪気があってそんな言い方をしたんじゃなくてね、もしかしたらDくんのことが大切で、いつも近くにいるから、ものすごくプライベートなことを尋ねられたように一瞬感じられてしまって、びっくりして咄嗟に言っちゃったのかもしれないなって思う」

「どういうこと?」

「たとえばね、トイレに行ったことのない人が目の前にいるとして、ここでDくんに『ちょっとウンコの仕方やって見せて』ってお願いされたら、ましてやみんなの前で見せてって言われたら、どう思う?」

「えッッ!!それはッッ!!無理ですッッ!!」

「そうだよね。それに近いんじゃないかと思うんだ。卵子や精子がつくられる場所とか、でてくる場所はどこかとか、それは習った?」

「習った」

「それって、下着とか水着で隠れたところじゃない」

「隠れてる」

「っていうことはね、プライベートなこと、人には見せたくない、見られたくないところってことかもしれないんだ」

「ああ~。僕も見られたくないッッ!」

「そうだよね。見せられても困るわ」

「見せませんよッッ!」

「先生も咄嗟にそう思ったかもしれないよね。それとね、人によってかたちもちがうし、全員が同じものを同じように持っているわけでもなくて、『見た目がこんな印象だからこうだろう』とは言い切れないのが人の身体なの。大庭は背が低いけど、同じ年齢の女性でも、もっと身長が高い人いっぱいいるじゃない。身体のパーツも、持っている機能も、使い方も、人によってかなり違うの。同じものでも、ゲームのコントローラーだって持ち方それぞれ違うじゃない」

「違う!僕の持ち方はこうです」

「だからね、図書室に本もあるだろうし、ネットで探してもいいし、少し調べてみてほしいの。一緒に調べたかったら、また話してね。でも、大切なことは知りたかったんだよね」

「知りたかった!僕は悪くないよね?」

「悪くないよ。でも、プライベートゾーンのことは見られたくない気持ちがある人が多いってことも、あるよね」

「僕も見られたくない……またわからなくなったら聞くね」
(※性教育のありかたは人それぞれであり、彼のキャラクターや特性を踏まえて、このようにお伝えしました)

おむすびをかじりながら、Dくんはゲームにもどっていきました。

家でも学校でも、死にたくなるから

Dくんと話していたときに、トイレに吸い込まれていったAくん。
しばらくもどってこないので、様子を見に行きました。

嘔吐音と流す音が聞こえ、
バックヤードにお菓子を取りにきたフリをしながら、そこにいました。

「ああ、おおばさん……」

「お、もしかして調子悪い?」

「うーん、たまにこういうことあるから、大丈夫」

「そうか。食べるのしんどくなかった?」

「うーん。でも腹は減るんすよねぇ」

「食べるのはいいことだけど、食べたくないときは無理しないで、水分もとってね」

「あ、そうだ。ありがとう。お茶飲みます。なんか最近調子でなくて」

「そうなんだ。元気なときばっかりじゃないよね」

「なんつーか、家にいると死にたくなるから。学校もか。勉強もわからんし、親にもいろいろ言われるし、まあまあ死にたくなる」

「そう……自分で死にたいって思ったことはある?」

「うーん、そこまでじゃない。いなくなれたらなーって感じ。嫌なことが消えたらなんでもいい」

「そうか……嫌なことが消えるのは、どんなとき?」

「ここにいるときかなぁ。塾とかもいろいろ言われるし」

「そうだったのね」

「学校とかも、クラスの人が話しかけてくるけど、ぶっちゃけ仲いいってわけじゃないし、遊ぶとかもないし、だったら黙っててほしいけど、向こうは仲良くしたいとか思ってくれるんかな」

「ああ、話しかけてくる人はいるんだ」

「いるけど、マジで友達とかじゃないから、ひとりになりたいけど、そういう場所はないし、学校終わったらすぐどっかいきたいっていつも思う」

「そうか……じゃあ、ここに来てくれてありがとうね。話してくれて嬉しかったよ」

「うん……マジで、ないと困る。お盆とか休まないでほしかった」

「ごめんね……来週もあるけど、来てくれる?」

「もちろん来る」

「じゃあ、約束しよう。来週も会いましょう。元気じゃなくていい」

「うん。おにぎりある?」

「あるよ」

お部屋にもどり、麦茶をおかわりして、Aくんはゲームコーナーに座りなおしました。

生命を大切にするために、必要なこと

ティーンの自殺が増えていると言われる昨今。

夏休み明けに一度そのピークが訪れることもあり、
公的機関やメディアでも、注意喚起がなされたり、特集が組まれたりします。

その社会問題があるということを周知するために、これらは必要な取り組みだと、私たちも考えています。
それと同時に必要なのが、根本的な要因に目を向けることです。

一人ひとりが情報の波に揉まれ、時間を失い、経済的にもマイナスの変化を受けやすい時代。
情報の分だけ人間関係も「増えているのに、希薄になっている」状態。

誰しも、目の前のことをこなすことに精一杯で、余裕を失っています。

まるで酸素の薄い高山を延々と早歩きさせられているかのような、
あるいはガソリンの切れかかった車でガソリンスタンドを探しながら、差し迫ったアポイント先に向かっているかのような状態。

けれども、冷静になってみると、
その山に居続ける必要はなかったかもしれないし、アポイントを仕事仲間に任せることだってできたかもしれません。
周囲を見渡して、誰もが忙しそうだからと思うと、
「ひとりでなんとかしなくちゃ」と背負い込んでしまう――
それは、程度の差はあれど、大人でもティーンでも、もっと幼い子どもたちでも、同じことです。

「もう歩けない!だっこして!」
と大きな声で駄々をこねるような人を、羨ましく思うこともあるかもしれません。
それすらも、「だっこ係は私」と、背負い込んで役割を固定化して、もっと追い込まれてしまう、なんてこともあるでしょう。

世の中も移ろうものであり、既にある状態をすぐさま変えることは難しいものです。
そして、いまある状態がすべて「だめ」だとも、思えません。
便利なものはあってほしいし、家族にも教育にも、良いところがたくさんあります。
そのなかにちょっとだけ、「心のバイパス」や「待避所」をもつだけで、余裕を生み出せるのです。

そのために、ナナメの関係性、ナナメの場所が、誰にとっても必要なのではないでしょうか。

「相談室」とか「支援所」だったら来ないよ

ゲームするnoNameティーン

「うっす、雨降ってたから図書館に行くのはやめたけど、小降りになったから来たわ」

常連のEくんがやってきました。

いつもふらっとやってきて、そこそこに遊んで、憎まれ口をたたいて、閉店時間までいて、帰っていきます。

「きょうはカフェオレやめとく。ジュースさっき飲んだし。蒸し暑いし。でもここカフェじゃけんな~。飲み物注文してこそカフェっていうか~」

飲み物を注文する、というルールはナナメカフェにはないし、何もしなくても良いのです。

「別に、何も注文しなくてもいいよ。ただ、水分補給はしてほしいから、麦茶でもいいし、なにか飲みながら過ごしてね」

「麦茶にするわ~。このせんべい、うま~」

おせんべいをつまみながら、Eくんは話を続けました。

「なんで、ここやっとるん?」

「ああ、このカフェ開けとる理由ってこと?」

「そうそう。だってお金とらんし、武蔵と大庭は破産するんじゃねえん(笑)」

「そんな心配してくれるん(笑)」

「だってここなくなったら困るし~」

「なくならんように、いっぱい働くわ~」

「マジで頼むわ~」

「じゃあEくんはなんで来てくれるん」

「え~?しらん~(笑)『武蔵んとこ行く』って出てきたし~」

「武蔵は友達か(笑)」

「だって、相談するとことか支援所とかだったら行かんじゃろ~。愚痴は聞いてほしいから言うけど」

「ああ、そうか~」

「そういうのマジで入りづらいわ」

「たしかにな~」

「俺は!カフェがいいの!やっぱりロイヤルミルクティー飲んどく」

ダル絡みの果てにロイヤルミルクティーを手にした彼は、ゲームコーナーの床に転がり込んでいきました。

何もしなくていい、何も背負わなくていい場所

タブレットで勉強するnoNameティーン

いつか10代だったあなたには、あるでしょうか。

何もしなくても許される、
役割がなくてもそこにいられるような場所。

家にいれば、夫婦や親子という役割があるかもしれません。
職場にいれば、部署や職種、担当業務の縛りがあるかもしれません。
趣味の世界でも、役割があることがほとんど。
友人同士でも、気づけばパワーバランスが偏っているなんて話もあります。

その状態に慣らされているのは、高地トレーニングをし続けているようなもの。
「苦しい」はずだったことを、忘れてしまうのです。
余裕なんて、ないのに。

「慣れているから大丈夫」――
目的のある高地トレーニング、目的があって取り組んでいることならば、耐えられるし、意味のあることでしょう。
どんなに懸命に取り組んでいたとしても、意味を見失えば限界は来るものですし、
意味があったとしても、まったく休まずに続けていれば、いつかは倒れてしまいます。

「生命は大切だ」と訴えることと同じくらい、
生命を大切にするための余裕を、自分に、相手に、社会に許していくこと。
どんな人にとっても、必要なことであると、私たちは考えています。

もしも少し、そんな余裕がほしいときには、
n cafeでお待ちしております。

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